大阪高等裁判所 昭和24年(ラ)70号 決定 1949年12月15日
抗告人 塩田一郎
塩田光子
右両名代理人弁護士 前田力
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人等の負担とする。
理由
本件抗告理由の要旨は、原審判は事実を誤りたるものにして、結局許可すべきものを為さざりしものにして、当然破棄は免れざるものなり、というのである。
案ずるのに、抗告人等夫婦の氏を「網谷」に変更許可申立の理由とする所は、要するに、(一)網谷家は抗告人一郎の母の実家でかつて同抗告人が同家の養子となつたことがあり同抗告人と深い関係のあること、(二)網谷氏の現在の戸籍筆頭者である網谷敏男は身持が悪く目下行方不明であるから、同抗告人が網谷氏の祖先の祭祀に当りたい、という二点に帰着することは、本件記録上疑のない所である。所が祭祀の主宰者は離婚や離縁とかその他特定の場合でなければ変更できないことは、民法第七六九条第七七一条第七四九条第七五一条第二号等によつて明らかで、抗告人等の主張するような場合は右の特定の場合に包含されていないばかりでなく、本件記録中の網谷敏男の戸籍謄本によると、同人には長男勝雄(昭和五年四月二二日生)のあることが認められるから、たとえ若年ではあつても同人が事実上父敏男に代つて網谷氏の祭祀を行うことができるものと考えられ、又敏男に万一の事があつても特別の事情のない限り勝雄が同人の相続人として右祭祀の主宰者たる地位を承継することが推定されるのである。して見れば、同抗告人は仮に氏の変更を許されたにしても網谷氏の祭祀を担任することは全然不可能で、それでは折角の氏変更の目的を達する余地はなく改姓は無意味となるものといわなければならぬ。従つて抗告人等の氏変更許可の申立をやむを得ない事由のないものとして却下した原審判は相当で、少しも事実を誤り許可すべきものをしなかつたのではないから、本件抗告は理由がない。そうして原審判には他にどこにも違法のかどがないので抗告を棄却すべきものと認め、抗告費用を抗告人等の負担として主文の通り決定する。